2021年 年金制度改正法のポイント

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2020年5月「年金制度改革関連法」成立

2020年5月に「年金制度改革関連法」が成立し、一部を除き、2022年4月1日から順次施行されます。今回の改正では、①社会保険のさらなる適用拡大、②在職中の年金受給の在り方の見直し(在職老齢年金制度の見直し、在職定時改定の導入)、③繰下げ受給の上限年齢の引上げ(70歳→75歳)、④確定拠出年金の加入可能要件の見直し等が行われました。

短時間労働者の社会保険の適用について、1週間の所定労働時間が通常の4分の3未満、1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満、またはその両方である短時間労働者は、下表の適用要件をすべて満たす場合、被保険者になります。

短時間労働者等の社会保険のさらなる適用拡大をはかるため、その適用要件が次のとおり見直されました。

適用要件(現行)

改正後

施行期日

企業規模要件

(従業員数500人超)

段階的に引き下げ

 

従業員数100人超規模

2022年10月~

従業員数50人超規模

2024年10月~

賃金要件

(月額8.8万円以上)

(現状維持)

労働時間要件

(週労働時間20時間以上)

(現状維持)

勤務期間要件

(1年以上勤務見込み)

撤廃

※フルタイム労働者同様、2カ月超の要件を適用

2022年10月~

学生除外要件

(現状維持)

5人以上の個人事業所の適用業種

(法定16業種)

10の士業を追加

弁護士・司法書士・行政書士・土地家屋調査士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・弁理士・公証人・海事代理士

2022年10月~

一方、就職氷河期世代でもある団塊ジュニア世代が高齢期に差し掛かる2035年頃を見据え、基礎年金の底上げをできるだけ早期に実現することが求められていましたが、具体的な対応は先送りとなりました。しかし、国会審議において与野党共同で法案修正が行われ、2019年財政検証で基礎年金の給付水準が長期にわたり大幅に低下する見通しとなったことから、さらなる適用拡大とあわせて、速やかに所得再分配機能の強化について検討を行うという規定が追加されました。

ポイント解説:今回の年金改正法に盛り込まれた検討規定って?

検討規定とは、改正法の施行とあわせて、今後の制度の見直しに関して政府に検討を求めるものです。規定の中には検討の方向性が示されており、今後の制度改革の方向性を示唆する重要な意味を持っています。ここでは、ポイントとなる改正法の附則第2条の内容について解説します。

第1項 公的年金制度を持続していくための検討

公的年金制度をこれから先も長期にわたって持続させ、公平性も確保していくために、「社会保障改革プログラム法(2013年)の検討項目」(※②適用拡大は第2項で規定)と「所得再分配機能の強化」について検討することを求めています。

①マクロ経済スライドのあり方

マクロ経済スライドは、基礎年金と厚生年金のどちらにも適用されます。2019年財政検証結果では、基礎年金の給付水準が厚生年金よりも大きく低下していくとしています。ここでポイントとなるのは、基礎年金の給付水準が大きく低下するということは、公的年金制度の重要な役割である所得再分配機能が低下していくということです。

基礎年金が下がった場合の所得再分配機能の変化

所得再分配機能を強化するためには、基礎年金をマクロ経済スライドの適用対象から外すことも含め、基礎年金の給付水準の底上げを検討していくことが求められています。

また、現在の年金受給者の給付水準を維持するためのマクロ経済スライドの名目下限措置※1ですが、少子高齢社会の下では年金財政にとって重い負担となります。年金制度を長期にわたって持続するという課題を克服するために、足下から将来を見通し所得保障のあり方を考えつつ、厚生年金における名目下限措置のあり方を検討していく必要があります。


※1 名目下限措置…年金受給者の年金額が大幅に減少しないように設けられた「前年度の年金額の額面を維持する」というルールのこと。このルールによって、現役世代の賃金の低下やデフレにより保険料収入が減っても給付水準が維持されます。そのため年金財政が悪化し、マクロ経済スライドの期間が長くなり将来世代の給付水準のさらなる低下を招くことになります。

③高齢期の就労と年金受給のあり方

高齢者の就労の拡大など、個々の状況が様々であることから、個人の都合に合わせて年金を受給できるよう、2020年の法改正によって繰り下げ受給の上限年齢が拡大されました(2022年4月施行)。なお、政府は、現在のところ、年金の支給開始年齢(原則65歳)※2は変えないとしています。支給開始年齢は老後の生活設計に大きく影響するため、今後も注視していく必要があります。

年金の繰り上げ・繰り下げ受給
(図2)年金の繰り上げ・繰り下げ受給

※2 支給開始年齢…公的年金の受給資格を持つ者が受給を始められる年齢で、原則は65歳。手続きによって60歳から70歳の間で年齢を選択できます(2022年4月以降71〜75歳も選択可能)。ただし、受給年齢を65歳以外にした場合は給付額が増減します。

④高所得者の年金給付、年金課税のあり方の見直し

60歳以上の人が企業などで働き、厚生年金保険に加入しながら老齢厚生年金を受け取る場合、賃金や年金額に応じて年金額から一定の額が減額されて支給されるものを在職老齢年金といいます。

60〜64歳の在職老齢年金(低在老)では、高齢者の働く意欲を抑制しないよう、また、制度をわかりやすくする目的から、年金の支給が停止される基準(賃金+年金月額)が28万円から47万円に緩和されることになりました(2022年4月施行)。

65歳以上の在職老齢年金(高在老)については、緩和などが検討されましたが、適用基準(47万円=賃金+年金月額)の額が、現役世代の賃金と比べても比較的高く、その実現のためには年金財政からの支出を増やすことになり、受給者全体の給付水準が下がってしまうため、現状維持とされました。

なお、現在、厚生年金の支給開始年齢は65歳に向けて段階的に引き上げられており、男性は2025年度、女性は2030年度で引き上げが終了し、その時点で低在老という仕組みそのものがなくなります(低在老の対象者:男性1961年4月1日生まれまで、女性1966年4月1日生まれまでの方)。

その他、公的年金等控除※3の見直しやクローバック※4の導入なども検討対象になると考えられます。


※3 公的年金等控除…年金収入は、所得税法上、雑所得として課税の対象ですが、公的年金および一定の企業年金(厚生年金基金、確定給付企業年金、企業型確定拠出年金)などの収入については、年齢や年金額に応じて年金収入から控除(公的年金等控除)して、雑所得の金額を求めることとされています。

※4 クローバック…高所得者に対する税財源による年金給付を調整すること。カナダでは、一定の所得を超えている年金受給者は基礎年金の一部または半分を税として払い戻すこととされており、これをクローバックと呼んでいます。

第2項 社会保険のさらなる適用拡大の検討

次期財政検証(2024年)の結果を踏まえて、社会保険のさらなる適用拡大を検討することが求められており、2020年の年金制度改正で現状維持のままとされた適用要件(労働時間要件、賃金要件など)の見直しにも着手する必要があります。中でも企業規模要件は、2012年の法改正で、他の4要件とは異なり激変緩和措置として設けられたもので、衆参両院の厚生労働委員会の附帯決議に明記されているとおり「できる限り早期の撤廃に向け、速やかに検討を開始すること」が求められています。

また、複数の会社等に雇用されている方が社会保険の適用となるかどうかは、現状、それぞれの事業所ごとに判断することとされています。例えば、合計の労働時間が週20時間であっても、一つの事業所における労働時間がそれに満たない場合、条件を満たさないと判断されます。政府が「働き方改革」の一環で副業・兼業を進めていますが、必ずしも就労実態に応じた社会保険の適用がなされていないという課題があり、早急な検討が求められています。

第3項 基礎年金の給付水準の底上げが必須

国会での審議を踏まえて追加された検討規定であり、一番重要・・・・なポイントです。

2019年財政検証結果では

①基礎年金のマクロ経済スライド調整期間が厚生年金と比べて長期化すること

②給付水準(所得代替率)も、基礎年金は厚生年金と比べて大きく減少すること

が示されています。

この附則第3項の規定は、第1項と第2項の内容を検討するにあたって、財政検証結果で明らかになったこれら2点を踏まえて検討することを政府に求めています。つまり、基礎年金の底上げを念頭に置いて、制度の持続可能性や公平性(所得再分配機能の強化)、さらなる適用拡大の検討を行うことを政府に要請しているのです。

基礎年金は、老後生活の基礎的な部分を保障するものとして1985年の法改正で創設されましたが、マクロ経済スライドの適用によって長期にわたり給付水準が低下していきます。財政検証結果では、例えば、経済成長や働く人の人数が比較的現実的と考えられるケースⅣというシナリオの場合、2019年と比較すると、2053年には所得代替率が約36%低下するとされており、所得保障の機能は当初想定していたものから大きく後退していくこととなります。そのため、2020年の法改正を審議した国会では「基礎年金の給付水準の底上げ」に向けた検討の重要性について与野党が共通認識に立ち、この規定が新たに追加されることになりました。具体的な給付水準の引き上げのためには、保険料拠出期間の延長とそれに伴う国庫負担の増加分の財源確保などについて検討が必要であり、このことは衆参両院の厚生労働委員会の附帯決議にも明記されています。

改正法附則の検討規定や国会附帯決議に記載されている事項が早期に検討され、雇用形態の違いや企業規模によって社会保険に適用されない人がいるという理不尽な状況が無くなり、すべての働く人に社会保険が適用されること、老後の生活を支える基礎年金の給付水準の底上げに向けた議論が進むことが求められます。そして、支え手である若い世代を含め、あらゆる世代が抱える年金に対する不安が解消され、世代間の支え合いである公的年金制度が安定的に継続していくことが望まれます。